男性用の香水の香りがふわりと鼻をくすぐった
果て偖て此れは一体どう云う心算なのか。その香りはぼくの馴染みの深い香りではなく見知らぬ、しかも男性的な香りであったのだ。ぼくの香水はここまで甘い香りでは無い。然し此れを女性が着けるとなると少し不思議に思う香りなのだ。問題である当の本人のはと謂えば、カーテンの隙間からきらきらと降り注ぐ日差しを足っ振りと浴び暢らすやすやと眠りに浸き昨晩より寝崩れたままであった
そぅっと彼女の透明な肌へ触れてみる。何故君は此の様な香りを着けているのか。只の匂い1つだと云うのに其れだけが気になって仕舞う。君は他の男の許へ行って終ったのだろうか。揺らぐ陽射しはぼくの心を映した
***
今日はぼくが朝御飯を作る当番だ。手早く昨日買ってきたパンとスープ、コーヒーを準備し食事が出来たと彼女を呼ぶとは漸く大欠伸を残して起き上がる
「おはよう」
「おはようございます、お寝坊さん」
ぼくはパンを頬張る彼女を横目に珈琲を啜った。一息着くとぼくは切り出す
「昨日は何処へ出ていたんです?」
その質問に彼女の肩が跳ねた。一瞬目が合うが恐らく反射的なのだろう、彼女は目を逸らし友達の所へ行ったと答えた
は今日も行く所があるから!と残し素早く食事を済ませると何処かへ向かった
――怪しい
寧ろ彼女の行動を怪しまない方が酷だろう。それに先程の件も或り某ら隠し事をしているのは一目瞭然だった
彼女を追ってみよう。それが結論だ。ぼくの中に一瞬躊躇いが見えたような気がしたが其れを呑み込みぼくは急いで彼女を追った
***
追うこと数時間。未だに彼女は見付からない
もうそろそろ諦めて帰ろうか、という時にぼくの同僚であるグイード・ミスタの姿を見付けた。あの特徴的な青い帽子を見違えることはない。ミスタが香水屋へ行くなんて珍しい事もあるものだ。人伝いに聞いたことではあるがぼくが離脱した後にトリッシュにワキガだとバラされたらしい。あんなに大雑把なミスタでもやはり以前トリッシュに言われた言を気にしているのだろうか
然しそんな事を呑気に考えている暇など無かった。よく見るともう一人人影があるのだ。しかもとても見覚えのある――
そう、ミスタの隣にいるのは紛切れもなく――本人の姿であった
何故二人が共に居るのか、それは後程聞くとしてこれは<浮気確定>といっても過言ではないだろう
怒りに任せ飛び出そうとした瞬間向こうへ居るミスタもぼくの存在に気付いたらしく「ゲッ」という反応をしていた(何がゲッだ!と思ったが)ぼくは飛び出しの腕を掴み込んだ。
そして最初に落とした声は自分でも驚く程冷たい声だった
「何を……しているんだ」
「待てフーゴ、これは誤解だ」
「今はに話を聞いているんだ。ミスタは少し黙っていてくれないか
だがミスタ、君にもあとで話を聞かなくてはならない。さあ、此方へ」
「待ってフーゴ、グイードは悪くないの。お願い、離して」
「あら、フーゴ。あんた何してるの」
先程の店から出てきたシーラEがの声を遮る様に吃驚した様子で伺った
「シィラ!わたしがグイードと浮気してると勘違いされてるの」
「落ち着いて、一旦ちょっと喫茶店にでも入りましょうか」
***
「……はぁ。なんでそれ位直接聞かないんですか」
「それじゃあプレゼントなのにサプライズがないじゃない。ねえ?」
彼らからの一通りの説明を聞き、啜っていた珈琲をテーブルへ置く。僕の口からは思わず溜息が零れた
説明が長くなったので先程聞いた事を要約すると、はぼくに香水を贈りたかったらしくはそれを何時もの様にシーラEに相談しその相談を元にシーラEがぼくと付き合いの長いミスタを紹介して今買い物を済ませた、という事らしい
「處 では何故ミスタの下の名前を?」
ぼくは素朴な疑問を投げかけた。彼らは無論昔から仲がいいだとかではなく会ったばかりであろうにここまで仲が良いことに先程から気になっていたのだ
「いやお前の彼女だしよォ、最初はきっちりさん付けで呼ばれてたんだが落ち着かなくて砕けた感じでいいっつった」
「……あぁ。そうですか」
「ンだよその反応はァ〜〜!?」
「グイードすごく面白いしすぐ打ち解けたの。ね?」
「なァー!」
すっかり仲良くなり話が弾む同僚と恋人を横目にシーラEを呼び耳打ちをする
「シーラE、君にミスタを紹介したのは100歩譲っていいとしよう。だがにギャングの事がバレたらどうするんだ?」
「大丈夫よ、いざとなったらあんたが守ればいいことだし」
「そうじゃないだろ」
「でもさ」
シーラEが小声で囁く
「女の子が香水を贈る時ってあなたを独占したいっていう意味らしいわよ」
「、帰ろう」
代金を机へ置きフーゴ、どうしたの?というの声を遮り僕らは店を出た
***
「ちょっと待って、フーゴ」
後ろからが服を引っ張る
「どうしちゃったの?」
「……」
ぼくはぎゅっ、とを抱き締める
はどうしたの、フーゴと声をかけてくるが軈て母親に抱かれた子供のように静かに落ち着いた
ぼくの為に頑張ってくれた君を今日もより愛せるように
勁風プロフーモ
【勁風】
[読み]けいふう
強風のこと。強く吹く風