「これ、持っておいてくれないか」

――一週間前
そう言って彼女へ渡した鈍い銀色はぼくの部屋の合鍵だった
彼女ははじめは困ったように受け取れない、と反応する。いつもそうだ、だがそれが拒否ではなく照れであるということをぼくは知っていた。彼女特有の奥ゆかしさであり、魅力なのだ。これが誕生日プレゼントである旨を伝えると彼女の顔は綻び「ありがとう」と異国の言葉のお礼を口にした

殊に彼女へ合鍵を渡してからここ3日程二人共此方で過ごしている
そろそろ衣服も足りなくなる頃だ。そんな頃彼女から荷物を取りに行きたいと申し出があった
――ぼくも手伝うよ
そう発したぼくの言葉でぼくは彼女の家へ行く事となった

***

彼女へ話しては居ないのだがぼくは所謂ギャングである
これは昔話であるが――ついこの間までは恩人であるブチャラティのチームでボスの娘、トリッシュ・ウナの護衛任務へ就いていた。しかし彼らはトリッシュを護る為に組織を裏切りぼくだけがこの場へ残ってしまった
だが、情報を引き出す為かスタンドが使える為か……どちらにせよぼくは解雇されず組織内にいるままとなる。そしてジョルノがボス、ミスタが実質的なNo.2となった今でも。あの時ぼくは彼らの事を裏切ったというのに彼らはなんとぼくに信用を置いてくれているのだ
嘗て――彼らがボスとなる前はスタンドの所為もあり彼奴には近付くな、なんてことも言われていた。それも共に同じ任務をこなす仲間に、である。そしてその相手もぼくを利用しようとし最期には捨て台詞を吐いてウイルスに呑まれ散っていった
ぼくがそんな残酷な世界で生きているということを彼女が知ったらどう思うのだろうか。そんな後ろめたさからずっと言えずにいた

***

「見てもいいよ、それ」

そう言って彼女が差したのは彼女の祖国での生活を記したアルバムであった
しかしぼくがこれに手を着けなかったのも理由がある。これに興味がないという訳なのではない。寧ろ大変興味が湧いており是非とも今すぐ読みたいくらいだ
だがぼくは君へ全てを話していない。それだというのにぼく一人だけ君のひみつを覗き見するようで躊躇うのだ
ぼくはおもむろにケーキ用フォークをエスプレッソへと持ち直すと口に残る甘味を呑み込む。そして彼女の方へと向き直った

「話があるんだ」

彼女は黙って此方を向く

口直しにいれたミントのスプリンググリーンが香った


スプリンググリーン



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