と喧嘩をした

切っ掛けはとてもくだらない本当に些細な事で今となってはそう云えるがその時は其れが大事に思えてしまったのだ
ぼくがまたついカッとなって壁に叩きつけたグラスはとお揃いのもので、かつて気に入って毎日のように使われていたその姿は今見る影も無く無惨にも破片となって落ちていた
片付ける時に使った雑誌のページは星座占いのページでぼくの星座は12位。信憑性などないし昔の記事で時期外れであると解ってはいるのだがすこし堪えるものがあった

怒りとは醒めてしまえば後悔に変わるようで、あの時怒りに満ちていた心は塊となって猛威を揮っていたというのに今となってはその全てが後悔に変わり後悔の塊となっている
出ていったの怒っていると云うのに寂しそうな目をしていたあの姿が脳裏に焼き付いていた

どうすればよいのか分からなくなって髪をぐしゃぐしゃにするように頭を掻きむしる

嗚呼もうむず痒くッて堪らない!これが世に云うヒステリーか!此はこんなに辛いものだと云うのか!

何とも伝え難い満たされぬ気持を誤魔化す様に近くにいた我が家の愛しき飼い猫の毛むくじゃらの背を掴み此方へ引き寄せた
突然の事で驚いたのか猫はガリガリと引ッ掻くように爪を動かした上、フゥだとかぐぅとだとかで取れる声で鳴いて拒否をする。が、その内大人しくなって此方の方に身を寄せた

彼女もこの猫と同じなのだ、そうなのだと思いたい
どんな意地っ張りな猫でも形は違ってもなんだかんだ最終的には此方へ気を許してくれる。彼女の怒りも其の様なものであるとぼくは信じてやまなかった


確かにぼくが悪かったのだ、ぼくが彼女に口を出しすぎた。
そうだ、謝ろう。彼女が帰ってきたら大好きな料理でもてなし、そしてごめん、と伝えるのだ
そう思った矢先、メールが届いた――からだ
しかしメールには「今日はシーラの家へ泊まります」とだけあった
なぜこうもタイミングが合わないのだろう


***


この時間はバルの賑わいですら帰宅する客と酔い潰れた客とで収まっている頃だろうというのにの本日の宿場の主、シーラEから連れ帰ってと連絡があり眠気が収まらぬまま彼女の家へ向かった
玄関でインターフォンを鳴らすとシーラEが入って、とドアを開ける。
どうやらは相当な量の酒類を呑んだらしくベロベロに酔いつぶれたのをシーラEが寝室まで連れていったようでは寝息を立てて寝ていた。部屋からは酒の香りが充満していて話をしている彼女からも酒の匂いがするのと顔がほのかに紅潮している辺り、きっと酔ったに飲まされたのだろう
ほら、言わんこっちゃあない。あんまり強くもないのにやけ酒をするから。

「あんたの事ばァ〜ッかベラベラ話してたわよ」
へぇ、と先程彼女から眠気くらい冷ましたら?と促され出されたインスタントコーヒーを飲みながらシーラEへ軽い返事を返した

「正直あんたらの喧嘩の話とかさぁ、本当どうでもいいのよ。けどね?毎回泣き付かれるこっちの身にもなって頂戴?あんたこれで何回目か覚えてる?パニーちゃん?」
「ああもう五月蝿いなぁ!その呼び名はやめてくれと前に云ったじゃないか!」
「じゃあ話してたこと覚えてるだけでも話しましょうか?『最近パニーが構ってくれない』、『パニーの帰りが遅い』、『パニーが仕事の人とばっか話してる』、『パニーが』『パニーが』って!」

普段恥ずかしがってパニーだなんて呼ばない癖に。そんなにぼくの事を話していたのか、という恥ずかしい気持とシーラEの前では声に出すのにすら躊躇っていた愛称で呼んでくれていたことに愛しさを感じた

「最初、があんたの彼女だって知らなかったとはいえ、親友と同僚のセックスの話を聞かされてるのはすごく複雑なのだけど」
「待ってくれ、それ……何処まで聞いたんだ?」

ぼくは頭を抱えた。それも凄く。確かにも酔っていて口が軽くなっていたのだろうけれど、正直そこまで話していたのかとなると動揺を隠せない

***

状況を詳しく聞くとは結構喋っていた様で、事細かに話されていたその話の説明(そのままからは大分端折ったようだが)をしてくれた目の前の同僚とは暫く視線を合わせて喋れそうにはない

「あぁなんでこんなこと覚えてるのかしら」
シーラEはこれだけしょっちゅう揉めてるっていうのに本当に飽きないわね、と続ける
「なんというか、すまない……だがぼくも好きで君に知られた訳じゃあないんだ……つまりこの話は忘れてくれないか」
「そんなのこっちから忘れたいわよ」

シーラEがあっ、と付け足す。にやりと笑顔を浮かべる彼女の表情を見て本能的に何か嫌な予感がした

「今私が調べてる情報の整理、手伝ってくれたら言いふらさないようにはしてあげる。あんたそういうの得意そうだし。ね、パニー?」
「わかった、わかったし集めた情報の要点まとめてやるから、その呼び方も勘弁してくれ」
「ちッ こっちは暫く引きずるつもりだったのに」


***

、起きて下さい」

「パニー……じゃない……フーゴ……?」
「パニーでいいって言っているでしょう?」

「パンナコッター……へへへおいしそう」
「はいはい、酔っ払いは家に帰りますよ」

一先ずの体を起こして背中に捕まるのを促す

「パニー、すき」

彼女から口を寄せてくる。積極的な彼女は珍しいがそれもそれで魅力的だ

「……知ってます」


口付けを返してまた眼差しを合わせた


眼差しと苛立ち



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