「おい、お前……。」
互いに恋人の誓いを交わしている彼――カーズが目の前で私の事を呼んでいた。
吸血鬼の彼と人間である私
他の人間であれば真っ先に全身の血液を息絶えるまで吸われ、既にこの世に存在しない筈だったが気に入られたらしく、定期的に血を吸われる為に貧血気味あるがなんとか生存はできている
以前私が買ってきた苺のショートケーキを食べながら上についているイチゴを残して最後に食べていた辺り彼から人間味と云うのを感じさせられ、それと同時に私が生かされているのもそういった理由なのだろうな、と思った
恋人、といってもきっと彼から見れば私の事は美味しい実をつける果実を食す為に生かしておいているだけの樹のようなもの、なのだろう
ところで唐突ではあるが今日はわたしの誕生日である
だが、暫くの間自らの誕生日を祝うなんて事してはいないし、況してや100年間生きている上にこの「天上天下唯我独尊」の文字通りの意味(但し本当の意味では無い方の、だが)そのままの存在を体現したような彼が私の事を祝うなどありもしないから"祝って貰う"なんて事を考えるだけ無駄なのだけれど。
「おい、聞いているのか」
「……ごめんなさい、考え事をしていました」
「あぁ、もうそんな事をしている間に日付が過ぎそうではないか」
彼にも今日は特別な何かがあるのだろうか。時計の時間を見てはそわそわとしている。
「おいおい、そんなに照れるな。畏まらず構ってほしいなら素直に言えと言っているだろう」
此れは彼なりの構ってほしい、というアピールなのだ
彼の近くへ行き、そっと彼の身許に寄り添う
頬が緩んだ彼の笑顔はとても可愛らしかった
「ところでよ
今日はお前の誕生日だろう?」
「ええ、そうですが……」
「折角だ。誕生日を祝ってやろう」
「は?」
先ず思考が停止する。
何故彼が私の誕生日を知っているのかと云う所から頭でも言っている通り、其の様な冷酷冷静冷徹残虐な男が私を名目だけだとしても祝うなんて事が或ると云うのか
「だから、"この私がお前の誕生日を祝ってやる"、と言っているのだ」
「ええと……何故私の誕生日を知っているのでしょう……?」
「あぁ、今日のお前はやけにカレンダーやらなんやらを見ていたからな
それで察しはついた。」
そんなに態度に表れていたとは。
脳内で振り返りああいうところ、こういうところで浮かれていたのが見られていたのかもしれないと思うと少し恥ずかしくなった
「すいません……そんなに浮かれていましたか。」
「そんなそわそわとしていた姿もそれはそれで可愛らしかったぞ」
「然しながら祝うなどあなたに其の様な事をさせる訳には……」
其の返事を聞いた彼の口許が上がり、にやりと不敵に笑う。嫌な予感がして私の頬に汗が伝った
「ほう。この私にそのようなくだらぬ事で迷惑が掛かる、と?」
「いえ、そんな。滅ッ相も無い……けれど、お手を患わせるのは……」
「ならばお前も私も喜ぶ事なら良いのか?」
「ええ……まあ。」
――成る程、了解した
と、頷くカーズ様。そして話を続ける
「――然し、人間の雌と云うのは浪漫ちっく、というのが好きだと聞いてな」
「は、はあ」
「此の様な物を用意したのだ」
そう云って取り出されたそれは紺色の布が覆っている上等な素敵な箱で、一目で何が入っているのか解るものだった
クッションに埋まったきらりと光る銀色。
彼はその銀色を手に取り私の左手の薬指にはめた
どうだ?私の見立ては。丁度だろう!と相も変わらず自信満々で喜ぶ彼。普段の彼とのそういうギャップにも弱いんだろうな、と私は思った
「こういった事は恋人に正式な所持物として知らしめる為に契約を結ぶ儀式なのだろう?
あとは口付け、だな」
みるみる彼との間隔が縮まり私は思わず目を閉じてしまう。その刹那、唇に彼の唇が触れた
「これで正式にお前は俺の所持品となった訳だ」
変わらない彼の態度にくすりと笑ってしまって「そうですね」と微笑み、そして私達はもう一度口付けを交わした
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2014.06.30
誕生日