
メガネが好きだ
貴方がたまに掛けるそれが堪らなく 好きだ
貴方の眼をより大きく見せるレンズ。そのレンズと貴方の距離を安定して支えるフレーム。貴方がくいっと持ち上げるブリッヂ。
そしてその奥の、貴方
普段は全然メガネなんて掛けていないのだけどパソコンの画面とか本を読むときとか書類を読んでいるときだとかそういう時に掛けている。近眼ってやつなのかなぁ。わたしはそこそこ目がいいからよくわからない
いつも掛けてて欲しいっていう訳ではないけれども彼のその姿がわたしは大好きだ
そうしてわたしがメガネと彼に向けて愛を伝えている間に今日も彼は書類に愛を伝えている。少しくらいわたしにも愛をくれてもいいのに
「仕事が終わるまで待っていろ」と言われてからさて何時間経っただろうか
買っておいたファッション誌は読んで終ったし、アバッキオの私物の本なんかは訳がわからなくってつまらない。だからといって彼の身の回りの事を手伝うと不機嫌な声が飛んでくるしそもそも彼のことだから手伝えるような事を残していない。本当にやる事がないのである
確かに押し掛けたわたしも悪いのかも知れないけれど恋人をここまで放置するのも如何なものなのではないだろうか。せっかく買ったばかりの白と黄色の花柄のスカートを横目に見てもテンションというものが全く以て上がらない
もうすぐお昼になっちゃうよ、と声を掛けても、あぁという生返事しか返ってこない
こういうときに適当にあぁだとかうんだとかの返事しか返ってこないのだからキスして、って言ったらそういう返事が返ってくるのかしら。待ちすぎて疲れてしまったし困った顔が少し見てみたいわ、少し試してみようかな
「アバッキオ」
「あぁ」
「キスして」
「あぁ」
やっぱり!じゃあそれならば近付いてしまえ。顔を近付けるとアバッキオはなんだ、と呟く
「さっき何に返事したか覚えてないの?」
「よく聞いていなかった」
「私がキスして、って言ったらあぁって返事きたから待ってるの」
それを聞いたアバッキオは状況を理解したらしく彼にしては珍しく、色白の肌を真っ赤に紅潮させた
激しく動揺した彼もまたそれはそれで可愛らしい
そんな事を考えてにやにやしていると″あぁもう!早く目を閉じろ!″という声が飛んでくる
「いいか、一回だけだからな」
そういってしてくれたキスは眼鏡が当たって少し痛かった
眼鏡